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信じがたい結論とせまられる考察
西村肇 手塚正治 田中秀男

 以下の文章は巻末につけるべき性質のものかも知れませんが、私たちの気持ちを伝える最も重要な部分なので、巻末で読み落とされないようにここに記します。
 この報告書を読めば妖怪の正体は一人の主婦であったことがすぐお分かりになるでしょう。これは推理小説のはじめで真犯人を教えるようなもので興味半減でしょうが、なぜ、あえてそうするかというと私たちの研究の真の目的が単に実証的手法で妖怪の正体を突き止めるだけには終わらないからです。それが一介の主婦であったとすると、もともと妖怪性のまったく無い主婦が、なぜ幻想に過ぎない讒言(人を陥れる嘘)を迫力をもって振りまき、無実な人間を糾弾追求し、恐怖でもって団地全体を支配するに至ったのか、それを皆さんと一緒に考えたいのです。再発を防ぐためです。
 一番明瞭な大きな理由は、彼女が自分が理事長として全体を指揮して成功させたと思っている10年前の補修工事は、彼女の能力をはるかに超えていたことです。彼女にはまったくその能力が無いのに、総指揮する立場に立ったことです。少し実務の経験のある人なら、10億円の工事の総指揮を無償では引き受けないと思います。工事の計画書、仕様書、入札契約、工事監督、トラブル処理をまともにやるのは、どんなに大変で、時間を食う、気の休まらない仕事かが、すぐ分かるからです。まず、工事そのものに関する知識、数十人の関係者をマネージできる能力、海千山千のゼネコン業者を相手に交渉できる能力が、必須だとすぐ分かるからです。
 一介の主婦がそれを引き受けたのは、多分、経験なく何も知らないからでしょう。一人で決めた買い物の最高額は数十万円、マネージメントの経験は自宅の家庭塾に雇った主婦4?5人、業者との交渉経験は、リフォーム業者だけという主婦だからこそ、10億円という仕事の大変さが想像もつかないまま、引き受けたのでしょう。
 何も分からない人が頂点に立った時、解決法は一つしかありません。「ものごと」で判断するのではなく「人」で判断することです。寄って来る人を感じだけで「良い人」「悪いひと」に分け、「良い」と判断した人にはすべて頼ることです。一番面倒な仕様書の作成も「あなたの所へ発注するから作ってください」と言えば、業者は喜んで作ります。しかし一旦頼んだりお願いしたりすると、力関係は逆転します。今度は業者の「わがまま」を何でも聞かなければならなくなります。10年前の補修でそういうことが起こったかどうかは分かりませんが、手塚報告書に見る通り、何から何まで戸田建設の言う通りになったことは確かです。
 何も分からない人がトップに立っても、なんとかなるのはこのような訳ですが、こわいのは批判的意見に対する対応です。人を?と?に分けて対応するだけで「ものごと」の判断が出来ない人には、自分のやり方を批判された時、それが、どんなにまともなことであっても、それを理解することが出来ず、被害者意識と敵愾心だけが高まります。そしてルール無視の攻撃に出ます。たち悪い執拗ないじめもその一つです。この姿がまさに妖怪なのです。妖怪は、能力の無いトップが追い詰められた姿なのです。

 では一介の主婦に過ぎないこの人が、なぜ大規模補修のトップの座に座ることになったのでしょうか。それは、「思いつめたら止まらない」この人のパワフルな性質が寄与していると思いますが、自ら理事長の座を考えていたとは思えません。偶発的な事件で発揮されたこの人のパワーを見て、この人を利用しようとする人々が増えたのだと思います。その一つは業者でしょう。もう一つは役員の男性たちです。まかり間違えば自分に降りかかるかも知れない大役を、この人をおだてることで、この人に押し付けていったのだと思われます。おだてに乗りやすい性格で、おだてられてまま、大変さはまったくわからず、引き受けたのが真相でしょう。

 それならば、妖怪出現の真の責任者は、理事長、補修担当理事を務めるだけの社会的経験と能力を持ちながら、これを無経験な主婦に押し付けてしまった男性たちにあると言えそうです。これが一番反省したい点です。もちろん責任を取ろうとした少数の男性もいます。理事長を引き受けた田中、補修実行委員長を引き受けた西村です。しかし、両名とも早々に妖怪勢力から放り出されてしまいました。この時はすでに妖怪勢力と戸田建設が組んで工事を進める路線が出来ており、両名は邪魔だったからです。そういう路線が出来る前にこそ、経験と力のある男性たちの参加が必要だったのです。

 25年前、第1回の補修工事の時は経験と専門能力のある男性たちが嬉々として参加していました。それがなぜ第2回の補修工事にはほとんど消えたか。これは第3回の補修工事が、第2回の轍をふまないため、ぜひ考えねばならないことです。明らかなのは大きな時代の変化です。人々の生活意識も価値観も、気がつけば、大きく変わりました。忍び寄る高齢化とともに生活スタイルにも変化があります。不在家主の増加といった問題もあります。これに対応して、「まともな社会常識が通用する」管理組合の運営を取り戻すには、組合の組織、規約、運営方法をかなり根本的に見直さねばならないでしょう。いまこそ皆で集まって考えて行きませんか。


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