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どうしたら独創的研究ができるか
独走と社会
生活費とパトロン
 生活費とパトロン

 生活費の問題はさらに深刻です.ここでも第一原則は必要生活費を最小限に抑えることです.Simple life,Single lifeが基本でしょう.結婚する場合も生活費の上ではそれぞれが自立していることが条件でしょう.独走的研究を続けることと家族の生活に責任をもつこととは矛盾します.よほどの幸運に恵まれた人でないかぎり,どちらかを選ぶしかありません.その点で純粋な研究費は芸術家と同じだと思います.純粋に芸術を追求している画家は絵からは収入が得られないものです.自分の画が高額で売られるようになった画家は売絵画家であって芸術家ではありません.
 芸術に対する社会の無理解のため,芸術から生活費を得るのが難しいなら,過去純粋に芸術を追求した人々はなぜそれが可能だったのでしょう.それは理解者であり支援者であるパトロンの存在です.研究者と芸術家の類似から考えると,今まで言われたことはないのですが,独走的研究にも理解者であり支援者であるパトロンの存在は不可欠と思います.理解者,支援者はいるのに,それがパトロンと呼ばれないのは,支援といってもふつうは個人のお金を出しての支援ではないからでしょう.でもそれが支援の大事な形と思います.私は月給3万5千円の助手時代,匿名の篤志家から月額2万円の援助を3年間受けました.でもこれは生活費に使わず,当時公務員には不可能だったソ連と東欧諸国への出張を個人資格で行うのに使いました.このときの1ヵ月の旅行こそが,それまでまわりを知らず一人で考えて走ってきた私に自分で考えて進むことに自信を与えてくれました.学者との討論も有益でしたし,ソ連に暮らしてみての経験は,官僚主義が国を滅ぼすであろうことをはっきり予感させてくれたからです.この旅行は本から知ることと,体験することの違いを嫌というほど教えてくれました.
 独走的な生き方を一生続けようとすると社会との関係で判断を迫られ,選択を迫られることが絶えません.間違えない判断をするためには社会と人間についての豊富な経験と反省が必要です.研究室内だけの経験では不十分です.Simple lifeは生活スタイルならよいのですが,生活費minimumが自己目的化するのは感心しません.独創には独創的な経験が必要なはずだからです.ではそれに必要な費用はどうするか,私の場合は匿名のパトロンからの援助がありました.でも近頃はそういう話は聞きません.時代が変わってみんなが金持ちになったからかもしれません.
 しかし独走をめざす若者は相変わらず貧しいようです.そこで私は親に向かっては親がパトロンになるように説得します.遺産の生前贈与のつもりでです.研究者に対しては絶対に必要な数百万のお金なら親に借りるように言います.今の親の世代なら出せない額ではないし,お金は必要な時に借りて使って返せる時に返すのが一番理想的な利用法だからです.でも私の提案や忠告を聞く人はほとんどいません.それは研究者は社会的に尊敬される職業で,当然,妻子を立派に養ってゆくべきで,人から援助をもらうなどとんでもないと思っているからでしょう.でもこれは独走しようとする研究者にはあてはまりません.
 生活費とパトロンについては,まだ言い残されている問題が一つあります.そしてそれが実は一番重要です.生活費確保に決定的なのは,研究できるポジションへの就職です.そして理解と支援のうち,支援の最大のものはポジションの好意的供与です.それはあるとすれば,大学院での指導教授からです.これについては問題が複雑ですので別に議論しましょう.
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