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どうしたら独創的研究ができるか
独創は二人の仕事
WhyとHow,WhymanとHowman
WhyとHow,WhymanとHowman

 研究とはWhyの疑問に対し,Howで答えることです.科学者なら誰もがやってみたいもっとも独創的な仕事とは社会的に注目されながら誰も近づけなかったある疑問(Why)に対し,「なるほど」と納得できる鮮やかな答をHowの形で示すことでしょう.Einsteinが一番よい例です.「光と並行あるいは逆行に運動しても光の速度は変わらない」という実験結果はなぜかという疑問に対し,「時間が運動体ごとに違うから」という答を出しました.湯川秀樹も近い例です.「原子核内で陽子と中性子がなぜ強い引力を及ぼしあうか」という疑問に対し,「未発見の粒子(中間子)をキャッチボールしているから」という答を出しました.Bardeenも見事です.「超伝導はなぜか」に対し,「フェルミオンである電子が2個でボゾンになるから」と答えたのです.
 このように価値ある独創には意味の深いWhyと常識をはるかに越えた鮮やかなHowが必要です.上の例では自分にWhyと問うて自分でHowを考えたことになっていますが,これはごく稀な天才の例で,普通はそうではありません.問題のレベルが低ければ別ですが,高い場合は,Whyを問う人とHowを答える人は別です.シュレーディンガー方程式と波動関数を使う現在の量子力学を作ったのはde Broglie(ドブロイ)とSchrodingerの二人です.電子のような微小世界にはなぜ量子化現象が現れるのだろうかと考えつめたde Broglieが,電子には物質と波動の二重性があるからではないかと気づき.Howの大まかなスケッチを描いたのです.この着想で量子力学の完全な体系を作ったのがHowの天才のSchrodingerです.
 なぜそうなるかというと,研究者にはWhyを考えるタイプWhymanとHowを答えるのが得意なタイプHowmanがいるからだと思います.でももともと人はWhyと考え始め,その過程でHowという答を見つけるはずです.それがなぜ二人に分裂するかというと,WhyとHowがまったく異質だからでしょう.第一にWhyという問いは子どもでもできますが,Howは普通,科学者でなければ答えられません.第二に科学者の答えるHowは仕組みがどうなっているのかという「物の理」ですが,Whyに対する答はこれに限りません.言葉の理屈も答えです.「リンゴはなぜ落ちるの」「重いから」「なぜ重いの」「重さがあるから」「なぜ重さがあるの」「物の本性」と答えても間違いではないわけです.したがって言葉による理屈の嫌いな人間はWhyを好みません.第三に,Whyと問うのに比べHowと答えるには高い専門能力を必要とし,それだけに評価も高いので達成感があります.第四に心理の問題としてHowを答える人間は未解決の問題があると苦しいので早く解決して解放されようとします.Whymanのように未解決の問題を何十年も抱えるタイプとは違います.
 当然のことながら,職業的科学者のほとんどはHowmanです.東大の理氓ナも優秀なのはみんなHowmanです.友達と出会うと「お前これ解けるか」とCambridgeのTripos優等卒業試験の問題を解き合ったものです.宇宙の涯(はて)のその先はどうなっているのだろうかというような無駄な話はしません.でもいったんHowmanになると,その傾向はどんどん加速されます.人から出される意味ある疑問だけに答えていると自分が考えるWhyという疑問はつまらないものだということがよくわかるので,自分でWhyを考えることに自信がなくなり,嫌になりWhyを考えなくなるのです.
 優秀といわれる人のほとんどはHowmanです.それだけにHowmanの競争は激しく,Howmanとしての能力で生きていくのは容易ではありません.自分の能力を見きわめた上での覚悟が必要です.
 Howmanとして能力抜群だったのは,朝永振一郎だと思います.よく湯川秀樹と並べられますが,二人はまったく違っていたようです.研究の同僚だった武谷三男が感心半分からかい半分で「湯川さん天才だったが,朝永はヘンな男だった.素粒子論研究会で誰かがまとまりのない話をしても黙って聴いていた朝永が何かチョコチョコとやるとたちまち美しい話になってしまう」と話してくれたのを覚えています.湯川との関係も基本的には同じだったと思います.当然ながらそのことを湯川は快く思っていませんでした.朝永との協力を依頼しに行った弟子(谷川安孝)に対し「君たちはまだ人の心がわかっていない.朝永君は若いころから今日までボクのまわりをウロチョロして意地の悪いじゃまばかりしてこられた」と語ったのが伝えられています.天才とHowmanの避けられない接近と対立でしょう.
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