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の値段 考え方と計算
Closing    あとがき

             あとがき

私が、いままでの私からは予想できなかったようなテーマを突然に取り上げて、本書を書く気になったのはなぜか、その動機と意図について簡単に説明します。

この研究を始めたきっかけは、本年2月、中村裁判の判決文全文と付属資料を丁寧によんでいる最中、日亜化学の会社会計の数字がすべて墨で隠されていて、利益構造の解明に全く不可能なことを発見し、これは許せないと発奮したことにあります。最小限のデータと理論解析で、日亜の財務内容を明らかにしようと決心しました。丁度、水俣病の研究で、一つの実測データもなかったのに、実験と理論解析だけから、メチル水銀の排出量の経年変化を出したようにです。
これは思ったより簡単に解決でき、2ヶ月後には本書206-208ページに載せた日亜の財務分析表の原型が完成しました。するとつぎに知るべきは中村修二の貢献度です。これには二つの面があります。一つは、企業オーナー、経営管理者との関係で見た発明者中村の貢献度であり、もう一つは、共同研究者との関係で見た研究者中村の貢献度です。これを知るために、野球選手と監督、オーケストラと指揮者について、成果への貢献と報酬配分の関係を調べだしました。さらに研究の共著論文について、貢献度決定の方法を研究する必要がありました。
これらを順々にまとめて行ったのが第一部です。それをベースに中村修二の問題を、一切の予見なしに、論理が命ずるままに展開したのが第二部です。第1章から第13章まで順々に書いて、読み返すことなく、そのまま編集者に渡したのが実情です。ただし「はじめに」は最後に書きました。全体を書き終わった時点で、この本で言いたかったことが、はじめてはっきり見えてきたので、「はじめに」を書き、題名を「人の値段」としました。それまでは「共同利益分配論」と仮称していました。

したがって、この本で言いたかったことは、「はじめに」に全部かきました。しかし、一番言いたいことなのに書かなかったことがあります。 それは

「いまやゲマインシャフトは機能しない」
「機能しないゲマインシャフトの功利的利用が組織の腐敗を招く」
「腐敗を断つにはゲマインシャフト幻想をやめるしかない」

ということです。これを書かなかったのは、「はじめに」で、「ゲマインシャフト」という用語を使って解説を書いてみて、初め気づいたことだからです。つまり書けなかったのが真相です。

ゲマインシャフトを、家族内の所有関係人間関係の社会への延長と見ると、日本の「ムラ社会」も「ウチの会社」も「ウチの組合」もすべて同じ心情に支配されていることが分かります。またドイツ語Gemeinschftの原義は「共有体」で、フランス語、英語ではcommuneです。Communismはまさにここからきています。したがって日本社会は、イデオロギーは別として、基本的にCommunism体質なのです。戦争中日本の軍人と官僚が、ソ連の社会に非常な親近感を抱いた理由はそこにあります。一方アジア、特に東アジアにおけるゲマインシャフト志向は非常に強固なものがあります。それはそこで人々の心情を深く支配している儒教倫理とは、家族の倫理で社会を律しようとするものだからです。それはCommunismと無縁に見えながら、両立可能なものです。Communismが中国と朝鮮で生き残っているのも理由のあることです。

しかし機能しないものが生き残る時、それが腐敗し、犯罪化するのも必然です。
現在、「成果主義の虚妄」など成果主義の失敗を強調する本が、喧伝され、世に受けていますが、読んでみると、いずれもゲマインシャフトの構造を堅持した
ままでの成果主義導入の悲劇です。家庭内の兄弟間に成果主義を導入したらどうなるかです。ゲマインシャフトと客観評価は両立しないのです。この意味で、今後の日本の社会で改革を考えるとき、ゲマインシャフト、ゲゼルシャフトという観念が、切り札の役目を果たすと思います。


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