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システム工学とはどんな学問か

 システム工学とはどんな学問か

 システム工学はなぜ生まれたか

 システム工学ということばを聞いたことがあると思います。宇宙船アポロ号の関係で聞いた人もあるでしょうし、コンピュータに関係ある学問だと思っている人もいるでしょう。それで正しいのです。宇宙船を飛ばしたり、高層ビルをつくったりするような、大規模な複雑な仕事の計画をたてるのに必要な学問です。手段としてコンピュータを使いますし、またコンピュータなしではできない学問ですから、コンピュータと強くむすびつけて考えられる学問です。
 私は、公害の問題を解決するのにこのシステム工学を使っています。それ以外にも、たとえぱ、エネルギーや資源の問題、人口と食糧の問題、都市の住宅と交通の間題など、社会的問題とよばれる複雑な問題の解決法を考えるのに、システムエ学が役立つはずです。
 システム工学は、自動車とかコンピュータとか、きまった対象にかんする学問ではなく、どんな問題にせよ、懸案となっている問題の解決法を考える学間だからです。
 ここで問題の解決とは、数学の問題を解くのとはちがいます。それはまず、問題の性質をよく分析し、なにが原因でそれにたいして打てる手がどれだけあるかを明らかにし、つぎに総合的に検討して、もっともよい解決法はなにかを考えてゆくことです。
 たとえぱ、みなさんの身近な例で話してみましょう。
 受験戦争の弊害をどうしたらなくすことができるかが大きな問題でしょう。いくっもの手が考えられます。たとえば高校受験だけが問題なら、中学校と同じ数だげ公立高校をっくって、だれでも、無条件で高校にはいれるようにするのが一つの解決法でしょう。それにちかい方法が実施された地方もありますが、結果的には高校のレベルがさがって、大学への進学がむずかしくなりました。
 結局、大学に進学したい人は、私立高校を受験するために猛烈な受験勉強ということになりますから、とても完全な解決法にはならないわけです。入学試験の学力評価に、一回の試験の成績でなく、平常の学習成績を重視するというのも一つの解決法と考えられますが、それを実際にやってみると、中学三年間の学校生活が受験戦争のようになってしまって、かえって具合の悪い点もでてくるようです。
 このように実際の間題とその解決は、数学の間題の解決とはちがい、はじめは問題自身があいまいだし、解答といっても、すぐ一つの正解が見つかるわけではないのです。いくつもの解答が考えられるけれど、どの解答も別の視点から見ると、短所や問題点をもっている場合がふつうで、総合的な立場から見て、最適な解決法をさがすのがシステム工学なのです。
 学問にはいろいろな学問がありますが、このような意味での問題の解決のための学問というのは、システム工学だけでしょう。
 このシステム工学という学問がどうして生まれ、どう発展してきたかをお話ししましょう。

 システム工学ははじめ、戦争の科学として生まれました。第二次世界大戦中のイギリスで、オペレーションズリサーチという名ではじまった、戦争の遂行にともなういろいろな問題にかんする科学が、システム工学の源流です。オペレーション( operation ) は作戦、リサーチ(research )は研究のことですから、システム工学のもとの名前は作戦研究なのです。
 戦争の科学というといやな感じですが、それはものの見方が単純すぎます。第二次大戦というのはおおざっぱにいえば、ドイツ・日本という独裁的な全体主義の国家が、全世界を侵略し、支配しようとしたのにたいし、中国・ソ連・フランス・イギリス・アメリカなどが、民族の独立と民主主義を守るために、つぎつぎたちあがってたたかった戦争ですから、オペレーションズリサーチは、民主主義を守るたたかいの科学といってもよいのです。これは余談ですが。しかし、まったくの余談でもないのです。
 同じ戦争をしていながら、イギリスにオペレーションズリサーチが生まれ、ドイツ・日本では生まれなかったことは、ドイツ・日本に民主主義がなかったことに関係があるからです。つぎに、これを説明しましょう。
 オペレーションズリサーチは、作戦研究といっても、戦争のやり方そのものを体系的に研究するのではありません。オペレーションズリサーチは、作戦の遂行にともなって発生してくる、まったく新たな間題をとりあつかうのです。
 たとえばイギリス船は、Uボートというドィツの潜水艦によって、大きな被害をうけました。武器や食糧の補給もむずかしくなったほどでした。対抗措置として、飛行機でUボートを見つけては爆撃したのですが、なかなか効果があがりませんでした。どうしたらもっと撃沈率を上げることができるのか。これが作戦にともなって発生する問題です。

 イギリスでは、この種の間題にたいする解決策を考えることを、戦争にはまったくしろうとである科学者のチームに依頼しました。科学者は考えることは得音だからです。しかし科学者、が考えるためには、まずよく調査し、データを集めなければなりません。ふつう、軍隊ではそれ、がむずかしいのです。
 ところが、イギリスでは科学者のチームが自由に行動し、軍人に会って調査することを許したのです。最高司令官にも会えたのです。こうして得られた結論をもって科学者たちは軍の作戦会議に出席し、軍人たちにむかって自由に意見をのべたのです。
 このようなことは、階級制度や身分意識の強い日本やドイツの軍隊では考えられないことでした。つまり、オペレーションズリサーチを考えつき、実施することは、イギリスやアメリカのような民主主義の国、市民杜会をもっている国ではじめて可能なことでした。
 つぎにオペレーションズリサーチは実際にどういうふうにやったのか説明しましょう。
 たとえば、アメリカの軍艦は空からつっこんでくる目本の神風特攻機によって、大きな被害をうけました。どうしたら特攻機の攻撃から船を守り、被害を最小限にとどめることができるのかが、大きな関心事でした。これについて相談をうけたとしましょう。
 まず最初は、現在はどうやっているのかをしらぺてみます。特攻機の体あたりをさける方法としては、ひんぱんに、急に針路をまげて逃げまわるのが有効です。高射砲でうちとしてしまうのも有効な防御です。
 つまり、逃げと攻撃的防御の二つがあるわけですが、この二つは矛盾するところがあります。高射砲の照準精度を高めるには、船を安定させることが必要で、ひんぱんに舵をきったのでは、高射砲は役にたちません。舵をきるほうがよいのか、きらないほうがよいのかが問題なのです。
 オペレーションズリサーチチームは、過去、神風特攻機が体あたりに成功した例、逆に船が特攻機うちおとしに成功した例を全部集めて、どういう時成功し、どういう時失敗したのか分析しました。
 急に舵を切った時、高射砲の照準精度は、大きい船ではあまり落ちないけれど、小さい船では極端に悪くなることがわかりました。その結果、チームは、特攻機からの損害を小さくする方法は大きな軍艦と小さな軍艦でちがい、大きな船では従来どおりひんぱんかつ急に舵をきるべきこと、小さい船では、従来のやり方はまちがいで、むやみに舵をきらないほうがよいという結論にたっしました。
 このようにオペレーションズリサーチの仕事は、調査をし、データを集め、それを分析して、どうすればどうなるかという関係をはっきりさせ、その結果を総合的に判断して、どうするのがいちばんよいかを決めるのです。
 このうち、関係をはっきりさせる段階を、モデルづくりといいます。したがってオペレーションズリサーチの仕事は、調査、モデルづくり、最適な解決策の探索の三つの段階をふむことになります。
 今では、これが科学者が問題を解決する時の常套手段のようになっていますが、では自然科学者はみんなこの三つの仕事をこなせるのかというと、そうでもないのです。
 数学者は、モデルができればそれからあとのことは得意ですが、モデルを考える点では物理学者にかないません。物理学者は、たんねんにデータを集めて調査するという点では、生物学者にかないません。逆に、生物学者は、モデルを考えたり、それを使ってなにかしたりすることはあまり好きでないようです。
 その点からいうと、初期のオペレーションズリサーチチームが、物理学者と生物学者で構成されていたのは興味ぶかいことです。
 物理学者は少し横着で、はやとちりなところがありますから、物理学者だけにまかせておくと、徹底的な調査という点では少し不安が残ります。この点、生物学者は、骨身をおしまず調査をします。しかし、集められたデータから意味ある関係を読みとるということになると、物理学者が意外に強みを発揮します。モデルの考え方は、調査結果を整理する時だけでなく、調査を計画する時にもたいへん有効なのです。
 したがってオペレーションズリサーチチームでは、性格のちがう二種の人たちが、緊張関係を失わずに協力していくことが、きわめて重要だったのです。
 この物理学者流のやり方と、生物学者流のやり方は、じつは自然科学の研究の二つの流れで、これを理解することが科学の性格を理解するのに役立つのです。自然科学はきわめて事実に忠実ですが、事実を集めたものが自然科学ではないのです。このことをいくつかの例をとって説明しましょう。

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