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訴状に添付した申立書 II      2008.06.16
「ある社会的背景のもとでの鈴木教授の不法発表行為とそれがもたらす結果」

            申立書 II
                           2008年6月16日
ある社会的背景のもとでの鈴木教授の研究不法行為とそのもたらす結果
                              西村 肇

1 鈴木教授の行為の社会的背景を知る必要

 鈴木教授と私は直接の面識はなく(一回の公開講演における突然の質問を除いて)、面談の経験もありません。研究面においても、魚類病理学の鈴木教授と化学システム工学の私とでは、研究上の接点はありません。したがって、鈴木教授が私の著書に対し、徹底した批判誹謗をおこなうのは、不可解です。単に個人的理由や研究上の理由によるのではなく、背景があると思われます。
 この背景を認識しないで、鈴木教授のデータ捏造行為だけを切り離して考えると、「単なる投書におけるデータ改竄を、なぜ大学が問題にしなければならないか」という疑問が生じ、「学問の自律のために大学がこの問題に対処して欲しい」という私の主張は理由をうしないます。鈴木教授の小さな捏造行為が、科学と社会にとって重大な結果をもたらすのは、ある社会的背景事情のなかですので、以下、事実だけにもとづいて、その関係の真実を申し立てます。

2「水俣病の科学」の内容とそれを敵視する人々

 私共の著書「「水俣病の科学」は、メチル水銀の生成と排出の化学的メカニズムを始めて明らかにし、過去の排出量の推算を可能にしました。そのことによって、チッソ水俣工場からの過去のメチル水銀の排出量の歴史的変化を再現し、「操業開始後20年を経てなぜ突然に水俣病が発生したか」という、誰も答えられなかった難問に答えて高い評価を得、毎日出版文化賞を授けられました。
 しかしこの評価に同調しない人たちもいます。チッソ水俣工場から排出されたメチル水銀は、不知火海全域を一様に汚染したので、水俣病患者は全域に拡がっているはず、という主張のもと、不知火海沿岸全域での水俣病患者認定の訴訟を考えていた人々です。この人々は「水俣病の科学」が明らかにした汚染の具体的メカニズムが、自分達がそれまで想像で主張してきた説と違うため、本書に「加害者を利する悪書」というレッテルを貼って敵視しています。心情的にはこの人々に共感する文化人も少なくないため、それらの人々の間では本書の評価に戸惑いがあります。

3 鈴木教授と「水俣病の科学」の接点

 鈴木教授がこのような人々が多く集まる「水俣展」に出かけて行き、「水俣病の科学」は魚類の専門家から見て完全な間違いと話しているという話が伝わってきました。なぜ「水俣病の科学」が魚に関係するかというと、本書の主部は、過去のチッソ工場からのメチル水銀の排出量を、理論的実験的方法で推定したものですが、その結果の妥当性を、当時の数少ないデータから検証するため、次のような試みをしています。
 当時、チッソ工場が秘密裡に行った実験として、水俣湾でとれたカタクチイワシを、ネコに食わせて、水俣病の発生を見る実験がありました。多数のネコが発病したので、これから当時のカタクチイワシのメチル水銀含有量(ppm)が推定できます。私はこれを基礎に、当時の水俣湾の海水のメチル水銀濃度を推定してみました。そしてこのような汚染を引き起こすメチル水銀排出量を推定し、これを先の理論と実験による推定量と比較してみたのです。つまり、工学的推定結果を当時のデータでチェックするため、ネコの実験値を使うことを思い立ち、その過程で、魚の汚染レベルから海水のメチル水銀濃度を推算することが必要だったのです。

4 海水のメチル水銀濃度と魚の水銀レベルの関係を知るための研究

 このためには知らねばならないことが山ほどありました。最初がカタクチイワシのメチル水銀摂取がエサ由来かエラ呼吸由来かの問題です。これを決めるにはカタクチイワシの摂餌機構・呼吸機構に関する魚類生理学の知識と水俣湾における動物プランクトン密度の調査が必要でした。その結果、当時の状況では水中のメチル水銀がカタクチイワシに移行する経路としては一旦動物プランクトンに濃縮されたものを摂取する経路より、エラを通じて直接水から摂取する経路が大きいと結論されました。
 すると残る問題は水中のメチル水銀濃度とエラを通じての摂取速度との定量的関係の決定ですが、これには 1)海水中の全水銀中のメチル水銀の割合の決定 2)メチル水銀中の塩化メチル水銀の割合決定が必要であり、更に 3)生体膜を通っての海水中から血液中へのガスの移動速度 4)塩化メチル水銀の蒸気圧決定が必要です。
 このうち1)・2)は超高度に困難な分析化学の課題で魚類生理学者誰一人手につけてもいないものですが、私は水俣病研究センターの赤木洋勝氏と協力し5年かけてこれを解決しました。3)・4)は理論的に高度な問題でこれまた魚類生理学者で十分な理解に達している人はいないのですが、これこそ化学工学プロパーの問題であり、わたしは自信をもって解決できました。

5 研究討論の提案をすべて拒否し一方的に発表をおこなった鈴木教授

 1970年に瀬戸内海の汚染の研究を始めて以来、私は、海洋汚染、海洋生態、魚類生理については自分自身の長期の研究経験があり、それをもとに独創したのが上記の研究ですから、鈴木教授のような人から「専門家からみてこれは完全な間違い」と言われるのは心外でした。鈴木教授は、魚とメチル水銀の問題を、自分で直接研究したことはなく、研究発表もないからです。鈴木教授の発言は、本には丁寧に書いたことが理解されていないためと思いました。そこで直接会って十分に説明すれば誤解は解けると思い、個人的に会って十分にお話したいという手紙を出しました。しかし、これは多忙を理由に無視され実現しませんでした。
 その後も鈴木教授は「水俣病の科学」は机上の空論であり、完全な誤りという趣旨の研究発表や講演を行い、それを聞いた人たちから私がなぜ反論をしないかという問い合わせが来るようになりました。そこで私は東大のような学問的な場で、科学者の前で公開討論をしようではないかと呼びかけました。これに対しては「自分は水俣病の専門家ではないので、突然知らない問題を持ち出されると不利になるから、公開討論には応じられない」という返事が来ました。
 その後、自分の見解を研究誌に発表するつもり、という便りが来ましたので「批判見解を発表するならそれに対する私の反論も同時掲載するのが当然なのでそれを条件にして欲しい」と申し入れたところ、「反論に対する反論の権利はどうなるのだ」という理由で、同時掲載を拒否しました。
 このような経緯をへて昨年9月、日本水産学会誌に突如『「水俣病の科学」の誤り』と題する鈴木教授の論説が掲載されました。会員の声という無審査の投稿欄への投書です。そのすぐ後、東京大学のホームページには鈴木譲の研究業績として「メチル水銀はエラを通じて海水から直接吸収されたとする『水俣病の科学』の誤りを指摘した」という一文と共に投書の全文が転載されています。

6 研究批判ルールの決定的逸脱 投書が研究業績

 鈴木教授は、私達の長年の研究結果である「水俣病の科学」を「誤り」と断定し、社会に向かって公言するにあたり、私からの討論提案、反論同時掲載の提案を一切断って、一方的な発表を行いました。それも投書の形で行いました。これは自然科学分野で他研究を批判する場合のルールをまったく無視した逸脱行為です。
 また会員欄への投書を、東京大学ホームページ上に全文掲載し、研究業績と称しています。これによって、投書内容への社会的信頼は格段に上がるわけですが、無審査の投書を研究業績と格付けることは、研究者間のルールでは絶対に認められてないことです。事情に詳しくない人の判断を誤らせる「詐称行為」だからです。東京大学はこのような詐称行為も黙認するのでしょうか。

7 鈴木教授の学会誌投書にみる研究詐術

 以上は、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●であり、これだけでも東京大学教授として資格を疑わせるのに十分ですが、さらに彼の「研究」の内容に立ち入って調べて見ると、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● それは以下に示すように完全な「研究詐術」です。

1)閲覧不可能な文献を根拠
 日本水産学会誌の「会員の声」にでた鈴木教授の『「水俣病の科学」の誤り』と題する投書を見たとき、私の最初の驚きは、彼が根拠にしている文献は、メチル水銀に関する文献は、全部目を通しているはずの私が、その存在さえ知らなかった報告書だったからです。その理由は、その報告書は、水俣病に関係あるどの研究施設にも、大学の図書館にもないものだからです。「環境庁委託研究報告書」と書いてありましたので、水俣病疾病対策室に問い合わせましたが、行政目的のために行った研究の報告書だから公開はできないという理由で閲覧を拒否されました。

 そこで鈴木教授に文献のコピーを送るよう要求しましたが1週間待っても来なかったので、この報告の筆頭著者である藤木教授(水俣病研究センター)に電話して依頼したところ、センターには置いていないが自宅にある筈なので探して送るということで4日後に私の手許コピーが到着しました。つまり、鈴木教授が根拠にしたとして文献名をあげている報告書は、事実上誰も原文を見ることが出来ない文献なのです。

2)根拠文献の結論を逆転して引用
 このように人が見ることができない文献を自説の根拠にする著者に必要なことは、原文献の絶対正確な引用です。藤木らのこの研究は魚の水銀蓄積の経路は 1)エサか 2)エラか 3)底泥か という当時最大の関心事に決着をつけるため、3種の環境を用意し10日間の飼育実験を行ったものです。
 鈴木教授と私の論争は、私が海洋環境工学の方法で、「カタクチイワシの水銀蓄積はエラ経由」と立論したことに対し、「エラ理由はありえない。エサ理由だ」と水産学者の常識で反撥したのが鈴木教授ですから、決着をつけるには藤木教授らの研究報告の結論を引用しさえすれば十分なはずです。
 藤木らは研究報告の結論としてはっきり次のように書いています。「汚染したエサによる水銀蓄積は予想に反し非常に小さかった。結局、海水中に溶存しているメチル水銀の魚への移行が決定的であることが確認された。」

3)根拠文献のデータの改竄と捏造
 鈴木教授の完全敗北です。しかし彼はこの結論を完全無視し、驚くべきことには、エラ経由を完全否定する材料としてこの実験報告書を利用しています。ただし実験結果を正確に引用すれば報告書の結論になりますので、この報告書が絶対に人の目に触れないことを確信して、エラ経由取り込み速度が小さくなるようデータを改ざんしています。藤木の報告では10日後のメチル水銀濃度が0.033ppmですが、鈴木の投書ではこれが「終濃度0.33ppb」と100分の1になっています。●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 
 多分、はじめはppm をppbと意図的に間違えることによって1000の1にしたのでしょうが、少しやり過ぎてつじつまが合わなくなったので、小数点を移動することで100分の1にしたのだと思います。
 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● しかも単にデータを捏造して自説の根拠としたのとは違い、この分野で権威のある人のある報告書が絶対に人目に触れないという事情を利用して、その報告書の結論を完全に逆転して私への攻撃に利用する目的で、データを大幅に改ざんしたのですから、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 

8 科学論争の判定を一般裁判所にまかせてよいのか

 鈴木教授からは水産学会誌への投書後、「どうぞ反論を」という誘いがありましたが、私が同誌への反論投書をしなかったのは、これが研究者間の正常な批判・反批判の枠を超えており、●●●●●●●●●●●●●●●●と考えたからです。普通の方法は名誉毀損の民事訴訟でしょうが、私はこれをするつもりはありませんでした。
 「水俣病の科学」が間違っているかどうかは、資格ある科学者を審判員として科学者自らの論争で決着すべき問題であり、科学の素人を審判員として、代理人の論争で決着してはならないと思うからです。このことを強く思うのは、水俣病認定訴訟という社会的舞台の上で、水俣病因論の研究が政治の嵐にもまれた歴史の記憶が新しいからです。

1)科学論争が裁判所に持ち込まれた水俣病関西訴訟
 水俣病の認定は、メチル水銀によって大脳と末梢神経の双方が障害される結果、「ハンターラッセル症候」がおこるという神経生理学の知見をもとに行われていましたが、これで認定されなかった患者が起こした訴訟の一つが関西訴訟です。未認定をくつがえすために行われたのが、患者をよく診ているが病理学研究の経験はない医学者、沿野成生氏の意見陳述です。「末梢神経障害を認めた従来の病因認は根本的に誤り」、「よってハンターラッセルを認定条件にするのは誤り」、「2点識別法だけで認定可能」という同氏の見解は、それまで一度も論文にされたこともなく、病理学者からの反批判を受けたこともないものでしたが、公判では専門家見解として採用されました。そして患者は一審に勝訴しただけでなく、最高裁でも勝訴しました。

2)その結果起こったこと
 最高裁での患者側勝訴の結果起こったことは、病因論における沿野氏の完全勝利です。最高裁では対立する病因論の間の論争を聴いて判断したのではなく、まったく別の考慮からなされた判断と思いますが、最高裁の判決となると、一般人ばかりでなく他の分野の専門家さえも、病因論争に決定的判定が下されたと感じているようです。例えば日本精神神経学会では、沿野理論が圧倒的多数から絶対的支持を得ていて、それに対する批判的見解の発表は許されない雰囲気と聴いています。

3) 今後危惧されること
 『「水俣病の科学」の誤り』を結論した鈴木教授の日本水産学会誌東京大学ホームページは、関西訴訟に勝訴した支援グループによって新たに法廷に証拠として申請され採用される可能性大です。その場合、関西訴訟の先例から考えると、私自身が、鈴木証人に対し十分な反対尋問を行う権利が与えられる可能性はありません。もし手続き上の反論が認められても、非専門家を判定者に、限られた時間内に、代理人を通しての反対尋問では、●●●●●●●●●●●●を認めさせるのは困難でしょう。それに、もし私が病気または死亡で反論できなければ、「水俣病の科学」の誤り説は社会的には確定してしまうでしょう。

9 いま東京大学に本気で期待されていること

 つまり科学者を判事にしての科学法廷で「いずれが真理か」判定される前に、非科学者による社会的判定が出てしまうと、その後の科学的論争と判定は非常に困難になります。科学の真理を守るたねには、問題が一般法廷に持ち込まれて社会的判定が下される前に、科学法廷での判定を行っておくことが是非必要だと感じます。
 科学法廷という制度があるわけではありませんが、実質的にこれを実現するのは、学問の府たる大学特に東京大学が、担わねばならない役割と信じます。私が本年2月、東京大学研究評議会に対し、鈴木教授の倫理逸脱行為を具体例として、「社会的対立のある問題について、大学教授が発表する際の倫理」に関し、評議会としての対応を求めたのは、まさにこの気持ちだったのです。
 科学の真理の判定が科学者の手から離れてしまうことを防ぐため、東京大学が、最高学府に求められ役割を進んで果たすことが、切に求められています。
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